かけ算は「九九を覚えたら終わり」と思われがちですが、家庭学習で見ていると、むしろ九九の後から差が広がる単元だと感じます。筆算に入った瞬間に急に止まったり、文章題になると式が立たなかったり、暗算は速いのに答えが安定しなかったり。こうした揺れは、子どものやる気や根性だけの問題ではなく、「どこを土台にして進めているか」がズレたときに起きやすいです。
この記事では、かけ算を家庭で整えるときに役立つ「5つの視点」を、保護者目線で整理します。いきなり大量の問題を解く前に、まずは今のつまずきが「九九」「意味」「筆算」「文章題」「見直し」のどこにあるのかを見分けられるようになることがゴールです。結果として、学年が上がっても崩れにくい形で、かけ算を支え直しやすくなります。
視点1:九九は「暗記」だけで終わらせない
九九が不安定な子は「言える」と「使える」が別になりやすい
九九が言えるのに計算になると間違える子は意外と多いです。これは「覚えていない」のではなく、言葉として唱える九九と、式の中で使う九九が頭の中で別のものとして存在している状態になりやすいからです。たとえば「7×8」は言えるのに「8×7」に弱かったり、筆算の途中で急に九九が出てくると止まったりします。九九は「唱える力」と「計算の部品として取り出す力」がそろって初めて安定します。家庭では、九九のテストをするより先に、式の形(○×○=○)で答えを出す練習が混ざっているかを見てみると判断しやすいです。
また、緊張したり急いだりすると取り違える子もいます。これは能力の問題というより、「自分の中で確かめる手順」を持っていないことが多いです。たとえば7の段で迷ったら、6の段を足して確認する、8の段で迷ったら4の段の2倍で確かめる、など「戻り道」があるとミスが減ります。九九が不安定なときほど、唱える回数を増やすより、迷ったときの戻り方を一緒に用意するほうが立て直しやすいです。
「2の段・5の段だけ得意」はヒント、弱点ではない
2の段や5の段は得意なのに、7の段や8の段が苦手という状況はよく見かけます。これは自然なことで、2や5は規則が見えやすく、手がかりが多いからです。逆に言えば、子どもが「規則や手がかりで覚える力」を持っている証拠でもあります。得意な段は「逃げ道」ではなく「手がかりを作る見本」になります。たとえば5の段が得意なら「10の半分」という考え方が使えますし、2の段が得意なら「倍」を感じ取れています。
家庭での判断としては、苦手な段を真正面から暗記で押し切るより、得意な段を使って近づける方法が合うかどうかを見るのがおすすめです。具体的には、8×7が不安なら「8×5+8×2」のように分けて確かめる、7×6が不安なら「7×3を2回」として確かめる、などです。こうした確認ができる子は、筆算や文章題でも自分で立て直しやすくなります。
九九が崩れやすい家庭学習で起きがちな「急がせすぎ」
九九はどうしても「早く言える」ことが目に見えやすく、家庭でもスピードを求めがちです。でも、スピードを上げるほど、取り違えが固定化する子もいます。間違えたままの九九を高速で繰り返すと、本人は「覚えたつもり」になり、後から直しにくくなります。九九は「正確さが先、速さは後」という順番を崩さないほうが結果的に近道です。
もし「速さを求めるほどミスが増える」タイプなら、まずは1問ごとに小さく確認する形に戻すほうが安全です。たとえば、答えを言ったら式を書いて丸をつける、迷ったら戻り道で確かめてから進む、など「正しい手順」を先に体に入れます。ここが整うと、あとからスピードは自然に上がっていきます。
視点2:かけ算の「意味」が分かると、文章題で迷いにくい
「同じ数のくり返し」と「いくつ分」がつながると強い
かけ算の意味は、学校でも「同じ数を何回も足す」と教わります。ただ、言葉として理解していても、問題文を読んだ瞬間にその意味に戻れない子は多いです。文章題で迷う子は、計算が苦手というより、「これは何の計算?」を決めるスイッチが入っていないことがあります。かけ算は「同じ数がくり返されている場面」を見つける道具だと腹落ちすると、式の迷いが減ります。
家庭では、難しい言葉で説明するより「1つ分はいくつ?」「それが何こ分?」をセットで確認するだけでも整理になります。たとえば「1袋に6個、4袋」のような場面は、1つ分(6個)と、何こ分(4袋)が見えれば自然にかけ算に向かいます。ここが見えると、足し算と混ざりやすい場面でも立ち止まれるようになります。
かけ算が足し算に戻る子は「式の意味」を使っていない
文章題で、毎回足し算に戻ってしまう子がいます。たとえば「6個が4つ」で「6+6+6+6」と書く。これは悪いことではなく、むしろ意味は分かっている可能性があります。ただ、そのままだと数が大きくなったときに負担が増え、筆算やわり算にもつながりにくくなります。足し算に戻るのは「理解不足」ではなく「省略の仕方が育っていない」サインです。
家庭での判断としては、足し算に戻ったときに「違う!」と止めるより、「今の式を短く書くとどうなる?」と促すほうがスムーズです。足し算の式を先に書いて良いので、最後に「同じ数がいくつ分だから○×○」とまとめる練習を入れると、かけ算が「意味のある省略」として身につきます。ここが整うと、文章題だけでなく、面積の考え方や単位の問題でも崩れにくくなります。
「順序」と「単位」が混ざるときの見分けポイント
かけ算でつまずく原因として、順序や単位の混乱があります。たとえば「6個が4袋」と「4袋に6個」は同じ意味ですが、式は「6×4」でも「4×6」でも答えは同じです。答えは合っても、本人の頭の中が整理されていないと、文章題で式を説明できず、次の学年で困りやすくなります。式の順序は「どちらでも正しい」場合と、「意味が変わる」場合があるのがややこしい所です。
家庭では、答えだけを見るのではなく、「1つ分はどっち?」「何こ分はどっち?」を言葉で確認して、式に対応させるのが安全です。さらに、単位が入ると混乱が増えます。たとえば「120円のえんぴつが3本」は、1本の値段と本数が見えれば良いのですが、値段と本数を入れ替えると説明が難しくなります。単位があるときほど「1つ分」「何こ分」の型に戻すと、式が安定しやすいです。
視点3:筆算は「計算の型」より前に、書き方の土台がいる
桁がずれる子は、途中式のスペースが足りていないことが多い
かけ算の筆算で多いミスのひとつが「桁ずれ」です。位取りが合っていない、途中の積をずらす位置が違う、繰り上がりを書き忘れる。こうしたミスは、理解不足よりも「書き方の環境」が原因になっていることがあります。ノートが狭い、数字が小さすぎる、途中のメモを書く場所がない。すると、頭の中では分かっていても紙の上で崩れます。筆算は「書けるスペース」が学力の一部になります。
家庭では、まず筆算そのものの教え方より、数字の大きさ・列のそろえ方・途中の積を書く場所の確保を見直すのが近道です。特に2桁×2桁の筆算は、途中の積が2行になり、最後に足し算が入ります。ここで行間が足りないと、本人は「何を書いているか」分からなくなりがちです。紙面が整うだけで、突然ミスが減ることもあります。
繰り上がりが消えるのは「書く場所が決まっていない」から
筆算の繰り上がりを書かない子は、注意力がないわけではありません。繰り上がりを書く「場所」が毎回変わると、書いたつもりでも見失います。小学生は、ルールが曖昧な作業が苦手です。繰り上がりは「頭で覚える」ではなく「書く場所を固定する」ほうが安定します。
家庭でできることは、繰り上がりを置く位置を毎回同じにすることです。たとえば、上の段の数字の上に小さく書く、という形に統一する。あるいは、繰り上がり専用の小さな欄を作る。やり方は家庭ごとで良いですが、「ここに書く」と決めるのがポイントです。場所が固定されると、見直しもやりやすくなります。見直しの段階で繰り上がりをチェックできるようになると、ケアレスミスが減っていきます。
筆算の最後の足し算で崩れるときは「足し算の土台」に戻る
2桁×2桁の筆算ができない理由が、実は最後の足し算にあることもあります。途中の積は合っているのに、足すところで桁がずれたり、繰り上がりを落としたりする。こういうとき、家庭では「かけ算が苦手」と決めつけるより、「筆算の中に足し算が入っている」ことを思い出すのが大切です。かけ算の筆算は、足し算の筆算が安定しているほど崩れにくい構造です。
もし足し算の筆算が不安定なら、かけ算だけを練習しても成果が出にくいことがあります。ここは遠回りに見えても、足し算の書き方・繰り上がり・位取りを一度整えるほうが、その後のかけ算が伸びやすいです。
筆算の中で最後に出てくる足し算が不安なときは、足し算側から整え直すと全体が安定しやすいです。かけ算の練習を増やす前に、どこで崩れているかの見取り図を作るヒントになります。
算数の足し算でつまずく理由が見えてくる|家庭で整える順番と「崩れない練習」の組み立て方
https://chugakujuken-zero-shop.pal-fp.com/math-calculations/sansuu-tashizan-tsumazuki-katei-seiri/
視点4:文章題は「式を立てる前の問い」が9割
式が立たない子は「何を求めるか」が先に決まっていない
文章題で手が止まる子は、計算の力より前に「何を出せばゴールか」がぼやけていることがあります。問題文を読んだ瞬間に数字に飛びつくと、足し算・引き算・かけ算が混ざりやすいです。文章題は「式を作る」より先に「答えの意味を決める」ほうが迷いにくいです。
家庭での声かけとしては、「何が何個あるの?」「全部でいくつになるの?」のように、答えの単位や内容を確認するのが効果的です。たとえば「全部で何個」「合計いくら」「何人分」など、答えの形が分かると、必要な計算が絞れます。ここが決まらないまま式を作ると、たとえ計算が合っても、別の問いに答えてしまうことが起きます。
かけ算の文章題は「1つ分」と「いくつ分」を線でつなぐ
文章題でかけ算を使う場面は、「同じ数がくり返される」状況です。ただ、問題文ではその繰り返しが目立たない書き方もあります。そこで役立つのが「1つ分」「いくつ分」を見つけて線でつなぐ考え方です。「1つ分×いくつ分」の型が見えると、文章題は急に簡単になります。
具体的には、1つ分に当たる言葉(1袋、1本、1人、1列など)に印をつけ、いくつ分(4袋、3本、5人、6列など)に別の印をつけて対応させます。これだけで、足し算に流れてしまう子も「同じ数がくり返されている」と気づきやすくなります。学年が上がると「何倍」「割合」の入口でも同じ構造が出てくるので、この型を早めに持てると後が楽です。
「できたはずなのに点が取れない」は見直しの型不足かもしれない
文章題は、式が合っていてもミスが出ます。単位を書き忘れる、答えが1つ分なのに合計を書いてしまう、途中の計算を落とす。こうしたミスが続くと、保護者としては「理解していないのかな」と不安になりますが、実際には「見直しの型」がないだけのことも多いです。文章題の見直しは「やり直す」ではなく「確かめる観点を固定する」ほうが続きます。
家庭で固定しやすい観点は3つです。①答えは何の数か(単位)、②1つ分といくつ分が問題文と合っているか、③式に使った数字が問題文から全部拾えているか。これを毎回同じ順で見るだけでも、点数のブレが減りやすいです。見直しが苦手な子ほど、自由に「見直してね」と言うより、見る順番を固定してあげるほうが、本人も取り組みやすくなります。
視点5:練習は「量」より「狙い」を先に決める
同じプリントを増やしても伸びないときは、狙いがズレている
かけ算が不安なとき、問題数を増やしたくなる気持ちはとても分かります。ただ、同じ種類の問題を増やしても伸びないときは、子どもが間違えている理由が「計算力不足」ではない可能性があります。九九が曖昧なのか、筆算の書き方なのか、文章題の読み取りなのか。ズレたまま量を増やすと、疲れるだけで自信が削られやすいです。練習は「いま直したい原因」に合わせて狙いを絞るほうが、結果として量が減っても伸びやすいです。
たとえば九九の取り違えが多いなら、筆算を大量にやる前に、式の形で九九だけを使う短い練習に戻す。桁ずれが多いなら、計算の難しさを上げる前に、同じ難易度で書き方を整える。文章題で迷うなら、計算練習より「1つ分・いくつ分」を見つける練習を増やす。こうして狙いを先に決めると、家庭の学習が落ち着きやすくなります。
「できるようになった」の判断基準を家庭でそろえる
かけ算は、できたかどうかの判断がぶれやすい単元です。九九が言える、計算が速い、筆算が解ける、文章題ができる。どれをもって「できた」とするかで、次に進むタイミングが変わります。家庭で判断基準が曖昧だと、子どもは「できたのに戻される」「まだなのに進む」というストレスを感じやすいです。家庭の判断基準は「完璧」ではなく「次に進んで崩れない最低ライン」を決めるのが現実的です。
たとえば九九なら、唱えるだけでなく、ランダムな式でもある程度止まらず答えられる。筆算なら、途中の積と最後の足し算が同じ形で安定している。文章題なら、式の説明(1つ分といくつ分)が言える。こうした「説明できるか」を基準にすると、学年が上がったときに崩れにくいです。
家庭で続けやすいのは「短い時間で終わる型」
継続が難しいとき、内容以前に「時間設計」が合っていないことがあります。長時間まとめてやると、最初は良くても途中で雑になり、ミスが増え、本人が嫌になります。短い時間で終わる型を作ると、家庭でも続けやすいです。かけ算は「10分で終わるセット」を作るほうが、結果として定着しやすいことが多いです。
たとえば、前半は九九の確認(式で10問)、後半は筆算を2問だけ丁寧に、最後に文章題を1問だけ「1つ分・いくつ分」を言ってから解く。こうして毎回同じ流れにすると、親の負担も減りますし、子どもも見通しが立ちます。もし中学受験を視野に入れる場合でも、土台のかけ算が崩れていると後で苦しくなりやすいので、短い時間でも「崩れない型」を作っておく価値は大きいです。
かけ算は、九九から筆算、文章題、さらにわり算へとつながっていきます。家庭で「どこまでを土台として固めるか」を整理しておくと、先の単元で焦りにくくなります。
小学3年生の「かけ算」を家庭で強くする完全ガイド|九九の再設計から筆算・文章題・わり算接続まで
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まとめ
算数のかけ算が不安なとき、問題の量を増やす前に「どこで崩れているか」を見分けるほうが、家庭学習はうまく回りやすいです。今回の5つの視点は、①九九は唱えるだけでなく「使える」まで整える、②意味が分かると文章題で迷いにくい、③筆算は書き方の土台が結果を左右する、④文章題は式の前に「何を求めるか」が決まる、⑤練習は量より狙いを先に決める、という整理でした。
かけ算は、この先のわり算や分数、小数、割合にもつながる大切な土台です。だからこそ、焦って進めるより、今の状態に合わせて整える順番を選ぶことが、長い目で見て安心につながります。記事を読んで「うちもここかもしれない」と感じた所があれば、そこだけを小さく直すところから始めても十分です。整えるべき点が見えてきたら、家庭学習だけでは手が回らない場面も出てきますが、そのときは短い時間でも「毎日同じ型」で練習できる形にしていくと、かけ算は少しずつ安定していきます。
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